こんにちは。理学療法士のRYUです。
糖尿病の方は耳にタコができるほど言われている「低血糖」
もしくは、易しい言葉で
「血糖値が下がりすぎて大変なことになってしまいますからね」
「冷や汗が出たら甘いものを食べるようにして下さいね」
とか言われたことがあるかもしれません。
でも、結局、低血糖の全体像をつかめていないまま、ただ言われるがまま
「血糖値が下がりすぎるから気をつけなきゃ」
くらいにしか思っていない方も多いのではないでしょうか。
逆に1度でも低血糖になったことがある方は、もしかしたらその恐ろしさを身をもって体験しているかもしれません。
これは、私達医療関係者もきちんと患者さんに理解できるように伝えることができていないということも原因だと思います。
ここでは、普段病院で患者さんに説明するように、糖尿病における低血糖の全体像をつかんでいただけるようにしながら書き進めていきたいと思います。
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目次
体は血糖値を80-100mg/dLでキープしようとしている
通常、血糖値は80-100mg/dLで安定させるために体は色々なホルモンが働いて血糖値を調整しています。
この体をある一定の状態にキープしようとすることを「ホメオスタシス;恒常性(こうじょうせい)」と言います。
食事を摂ったりして血糖値が上がった場合には、膵臓(β細胞)からインスリンというホルモンが分泌され血糖値を下げます。
逆に、食事を摂れなかったりして血糖値が下がってきた場合には、同じく膵臓(α細胞)からグルカゴンというホルモン、副腎からはアドレナリン、コルチゾール、脳下垂体という所からは成長ホルモンが出て、いずれも血糖値を上げるために働きます。
余談ですが、血糖値を下げるホルモンは1つしかないのに、血糖値を上げるホルモンは4つもあります。
その理由については、江部康二先生がその著書でお書きになっています。大昔、まだ狩猟などをしていた時代の人間は、飽食の時代と言われている今のように食べ物を十分に食べられることはありませんでした。まさに、「生きるために食べていた、食べるために生きていた」時代であり、当時の方が今の世の中を見たら驚くでしょうね。
そのため、今のように血糖値が高めで悩むというよりは当時は血糖値が低めでいかにエネルギーとして糖質を摂取するか、というよりどうやって今日食べるものを獲得しようかという状態だったと予測されます。
体も血糖値を下げるというよりも、いかに血糖値を上げていくかが重要であり血糖値を上げるホルモンが充実している現在の体の仕組みに進化してきているのではないかという話でした。
読んでいて目からうろこ、なるほどー!と思ったことを覚えています。
さて、そして、やはり食後も血糖値が80-100mg/dLになったところで落ち着くようになっています。
低血糖というのは、なんらかの原因でこの調整機能が崩壊した時に起こるということです。
では、この調整機能が崩壊する時というのはどんな時なのでしょうか。
原因1;糖尿病薬を使ってインスリンの分泌を促している場合
低血糖に注意しなければならないお薬の代表格はSU薬です。
このお薬は膵臓のβ細胞に直接働きかけて「出せよ出せよ」とインスリンの分泌を促します。悪いお薬というわけではありません。きちんと飲んでいる方、気をつけている方は低血糖を起こさないと思います。
しかし、通常の調整機能を無視してインスリンの分泌が促されるわけですので、例えば食事を抜いたり、激しい運動をした後というのは、低血糖の危険性が高まるというわけです。
糖尿病のお薬は他にもたくさんありますが、他に低血糖に注意が必要なのは速効型インスリン分泌促進薬です。
また、これらのお薬を他の糖尿病と併用している場合には同じく低血糖の危険性がありますのでご注意下さい。
原因2;インスリン治療をしている場合
糖尿病の治療で、インスリン治療をしている方も多いです。
先ほども書きましたが、インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンです。
これを直接体に入れるわけですからもちろん低血糖の危険性があります。
原因1、原因2に共通することとして気をつけたいのは、体調を崩したときです。
いわゆるシックデイ(sick day)という時には、食事が摂れなかったり、栄養を十分消化・吸収できなかったり、体調不良によるストレス、感染症により血糖値が不安定になりやすいです。そのような状態の時に、お薬や、インスリン注射で血糖値を下げるように外部から働きかけがあるわけです。そういう時には、お薬やインスリンをやらないというわけではありません。シックデイルールというのがあって、体調不良の時には「このように対応する」という決まりがありますので、それに従って対応して下さい。
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低血糖になったらどういう症状がでるか
まずは、一気にその症状をまとめます。
【交感神経系の症状】
冷や汗、不安感、手指振戦、顔面蒼白、動悸
【中枢神経系の症状】
頭痛、眼のかすみ、動作緩慢、集中力の低下、
意識障害、異常行動、痙攣、昏睡
”糖尿病療養指導ガイドブック2014より引用、一部改変”
体の調整機能は、血糖値を80-100mg/dLに調整するんでしたよね。
80mg/dLより下がってくると、体がインスリンの分泌が低下させて血糖値を下げないようにします。
70mg/dLより下がってくると、先程書きました血糖値を上げる4つのホルモンが働いて「血糖値あがりなさい」と働きます。そのホルモンが働いている結果、上に挙げました「交感神経系の症状」が自覚症状として出てくるんです。
しかし、それでも不十分な場合、
50mg/dLより下がってくると、今度はブドウ糖を主な栄養源にしている神経系が栄養不足になってきます。その結果、上に挙げました「中枢神経系の症状」である頭痛、眼のかすみ、動作緩慢、集中力の低下などが自覚症状として出てきます。
さらに低下して、
30mg/dLより下がってくると、症状はより重篤に、意識障害、異常行動、痙攣、昏睡が起こり、最悪の場合には死に至るということになってしまいます。
低血糖になることの弊害
もし、低血糖になってしまったら基本的にはブドウ糖を10-20g摂取すれば症状が落ち着いてきます。15分ほどたっても落ち着いてこなかったら、同じ対応を繰り返しましょう。
砂糖や、糖質が含まれるジュースなどでもいいですが、特にα-GI薬という種類のお薬を飲まれている方は砂糖の吸収を遅らせる作用を持つお薬なので適切ではありませんので、外出するときなどはブドウ糖を携帯しておくのがベストかと思います。
また、もし外出先で意識障害など陥ってしまった場合に備えて糖尿病手帳などを携帯しておくのもいいでしょう。
症状が落ち着いても、再び低血糖になる可能性もあるので、食事前であれば食事を摂ってしまいましょう。食事まで時間がある場合には、おにぎりを1個くらい食べましょう。そして食べながら、何が原因だったのかをよく検証しましょう。
そして同じ危険は冒さないように注意しましょう。
低血糖は、その時はそれで症状が収まっても、将来的な弊害があります。
まずは、「無自覚性低血糖(むじかくせいていけっとう)」です。
無自覚性低血糖というのは、交感神経系の症状を自覚できず、いきなり中枢神経系の症状に見舞われてしまうもので、原因としては、糖尿病神経障害による自律神経障害の他に、低血糖を繰り返すことでも起こるとされています。
無自覚性低血糖が、コントロールできない場合には運転免許を停止されてしまうこともあります。
脳が、低血糖に慣れてしまうことが原因とされています。なので、その逆もあって、普段血糖値が高い状態であると、その状態に脳が慣れてしまい、80-100mgmg/dLより血糖値が多くても低血糖の症状が出ることもあります。
あとは、認知症との関係です。
重症の低血糖を起こしたことがある方は、そうでない方に比べ認知症を発症するリスクが約2倍であるという報告もあります。
認知機能の低下と、血糖値は高い場合にも影響しているのですが、低血糖による危険性もあるということを知っていただければと思います。
まとめ
低血糖を注意するにあたって重要なのは、
自分がどんなお薬を飲んでいるのか、またはインスリン治療をしているのかどうか。
低血糖になるのは、主に食事を摂らなかった場合(体調不良などで摂れなかった場合)や、激しい運動を行った後(食事前だったら特に)などが多いです。
そして、低血糖の症状を把握して、もし交感神経系の症状が出てきたら(自己血糖測定が出来る方はそれで確認して下さい)速やかに対応する。
症状が落ち着いてたら原因を検証し、再発防止に努める。
重症低血糖を起こさないよう、自分で管理する。
いかがでしたでしょうか。
低血糖は、医療スタッフであれば現場で何度も遭遇するのでその症状やサインに気づくことも可能ですが、一般の普段低血糖とは馴染みの薄い(馴染んでいたらよくないですが)方が自分で気づくためには、やはり正しい知識と対応を知っておくことが唯一の方法なのかと思います。
これを読んで、自分だったらこうしようと自らの生活に活かしていただけたら、幸いです。
それでは!
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