この部位に注射はやめようインスリンボール

こんばんは。

理学療法士のRYUです。

今回は、インスリンボールについてです。

あまり聞きなれない方が多いのではないでしょうか。

これは、ボールの形をしたインスリン注射器でもなく、ただのボールでもありません。

インスリンボールは血糖値のコントロールを悪化させるものです。

特にインスリン注射をされている方には読んで頂きたい内容です。

では、インスリンボールとはいったいどんなものなのかご紹介していきたいと思います。
〈スポンサーリンク〉



インスリンボールはタンパク質の塊

インスリンボールはインスリン注射をするお腹にできることがあるタンパク質(アミロイド)の塊です。インスリンボールは普段、インスリンを打っている部分にできる可能性があり、注射部位を中心にポコッと固いコブのようなもの(硬結)ができます。

どうして、インスリンを打っている場所にコブ(硬結)ができてしまうのでしょうか。

インスリンの成分はタンパク質の元であるアミノ酸の集合体(ペプチドといいます)です。

アミロイドというのは、タンパク質が様々な原因により繊維状に変性した物質の総称であり、そのタンパク質がインスリン由来であるようです。これがお腹に溜まる(沈着する)ことでインスリンボールになるというわけですね。

なぜ、インスリンがアミロイドに変性してしまうのか詳しい原因はわかっていないようです。

インスリンボールに似た脂肪の塊というのもある

インスリンボールはタンパク質が変性したアミロイドが蓄積してできることはおわかりいただけたと思います。

インスリンボールに似たものとして、脂肪の塊ができることもあります。

それをリポハイパートロフィー(lipohypertrophy)と言います。

リポハイパートロフィーは 1 型糖尿病患者の約 30%に、インスリンを使用している 2 型糖尿病患者の約 5%に認められるという報告

(〇P.G.McNallyら:Lipohypertrophy and lipoatrophy complicating treatment with highly purified bovine and porcine insulins. Postgrad Med J. 1988,64(757):pp850–853
〇Hauner Hら:Prevalence of lipohypertrophy in insulin-treated diabetic patients and predisposing factors. Exp Clin Endocrinol Diabetes,1996,104,pp106-110
〇G. Teft, Lipohypertrophy:patient awareness and implications for practice. January-February/2002, www.findsarticle.com)

があり、特に1型糖尿病では多くみられる傾向があります。

インスリンは血糖を下げる働きがあるのは、周知の事実ですが、どのように血糖を下げるかというと血液中の糖を脂肪細胞や筋細胞へ取り込ませることで下げるんです。

お腹にインスリンを注射する場合にはそのお腹の下の脂肪には通常より多いインスリンが提供されることになるので脂肪が糖を取り込み大きくなってしまうという訳ですね。

こちらのリポハイパートロフィーの特徴はインスリンボールのようにポコッとはするものの、柔らかいそうです。

インスリンボールとリポハイパートロフィーのはっきりとした違いはCTや、MRIなどで腹部の状態を撮影すればわかるようなのですが、触ってみるというのも一つの判断基準かもしれないですね。
〈スポンサーリンク〉



インスリンボールもリポハイパートロフィーもインスリンの吸収を悪くする

お腹にポコッとなっていたら心配になりますよね。

先生にみてもらって「これはインスリンボールですね」「うーん、脂肪の塊ですね」なんて言われて、「よかった、悪い腫瘍とかじゃないんだ」と一安心、、、でもちょっと待って下さい。

これらはインスリンの吸収を悪くするんです。

インスリンボールへインスリン注射をした場合のインスリン吸収はリポハイパートロフィーと比べて有意に低下した(悪かった)という報告があります。

(吉嵜友之ら:インスリン吸収に及ぼす影響を検討しえた皮下局所的アミロイド沈着の 1 例,糖尿病,55,2012,pp786-792)

一方、リポハイパートロフィーへのへのインスリン注射でインスリン吸収は低下するが、血糖値への影響は有意差がないという報告があります。

(Overland Jら;Lipohypertrophy:does it matter in daily life? A study using a continuous glucose monitoring system. Diabetes Obes Metab,2009,11,pp460-463)

つまり、どちらもポコッとしたところにインスリンを注射することで注入されたインスリンがうまく機能せず本来下がるはずだった血糖値が十分下がらなくなってしまう可能性があるということです。

インスリンボールやリポハイパートロフィーを作らないために

ポイントはインスリン注射を打つ場所をこまめに変えることです。

同じ場所に打っている場合には、2-3cmずつずらして打つようにしましょう。

そうすればインスリンが毎回違う脂肪組織に注入されるのでリポハイパートロフィーができるのを予防できると思われます。

また、既にインスリンボールまたはリポハイパートロフィーができている場合においては、それらの箇所を避けてインスリンを打つようにするのがいいかと思われます。

一度できたら改善するのか

○伊藤らによればリポハイパートロフィーでは、1週間の同部位への注射中止により腫瘤の縮小傾向を認めたそうです。

(伊藤ら:Insulin-induced lipohypertrophyの1 例:臨床皮膚科 ,51,1,997,pp1020-1022)

○Dische FEらによればインスリンボールは、消失までに時間がかかるというリポハイパートロフィーとの相違点が指摘されています。

(Dische FEら:Insulin as an amyloid-fibril protein at sites of repeated insulin injections
in a diabetic patient.,Diabetologia,31,1988,ppp158-161)

○Haunerらの報告例では、リポハイパートロフィーを有する患者で、同部位への注射を中止することで、11 例中 6 例が 1 年以内の経過で腫瘤の縮小傾向を認めたそうです。

(Hauner Hら:Prevalence of lipohypertrophy in insulin-treated diabetic patients and predisposing factors,Experimental and Clinical Endocrinology & Diabetes,104,1996, pp106-110)

○矢部らは、大型の腫瘤を形成するものはアミロイド沈着と同様縮小傾向を認めない例も多いという指摘をしています。

(矢部ら:インスリン注射部位におけるインスリン由来アミロイドーシスにより著しい血糖コントロール悪化を認めた 1 例,糖尿病,58(1),2015,pp34-40)

以上から、リポハイパートロフィーもインスリンボールも時間はかかるかもしれないがポコッとなっている部分を避けるように注射部位を変えることで、改善傾向を示すものもあるけれども、ポコッとなっている部分がある一定以上の大きさだと残ってしまうことがあるということが言えるのかなと思います。

いかがでしたでしょうか。

インスリンボールやリポハイパートロフィーは患者さん自身で触ったり、注射部位をきちんと変えて打つことである程度予防することもできるものだと思われます。

血糖コントロールを良好に保つためにも、ご自身の体はご自身で十分観察し、もし「おや?」と思ったら医師や看護師に相談してみることをオススメします。

それでは!
〈スポンサーリンク〉



%d人のブロガーが「いいね」をつけました。